緑の悪霊 第11話


スザクは自分の嫁を狙う敵の痕跡を、野生の勘もフル活動させ探しに探しまくった。
そして、普段使われていない部屋の中でも緑色の髪の毛を見つけ、益々眉間の皺を深くした。黒髪も見つけているのだが、ルルーシュのものか咲世子のものかわからないため、そちらは泣く泣く拾うのは諦めている。

「・・・間違いない、この髪の持ち主は、このクラブハウス内に潜んでいる」

スザクはそう断言すると、ルルーシュには決して見せない、まるで猛獣が獲物を狙うような鋭い眼差しで緑色の髪の毛を見、口元に笑みを浮かべた。
俺のものに手を出そうなんて考え、二度と出来ないようにしてやるよ。


「困りましたね。スザクさんがC.C.さんの存在に気づいてしまいました」

それも、たった3本の髪の毛で。
ナナリーは、頬に手をおいて小さく息を吐いた。
その姿は可憐な少女の憂い顔なのだが、やっていることは盗聴だ。
しかも、使っていない部屋にまで仕掛けている徹底ぶり。
ルルーシュがこのクラブハウス内の何処にいても---流石に風呂場とトイレには設置していなかったが---何をしているかすべてナナリーにはお見通しだったということだ。
まさか妹がストーカー化してるなんて、予想外過ぎた。
あー、ルルーシュに手を出してなくてよかった。
本気でよかった。
同衾しても手を出そうとしない、しかも思春期真っ只中の男なんてあまりにも貴重すぎて、この状況を楽しんでいて本当に良かった。
手を出したら最後、生きたままコンクリート詰めとか、鉄の像の中に身動きできない状態で閉じ込められて美術館へとか本気でやりかねない。
死ねない事を心底恨む状況など、ナナリーになら簡単に作り出せるだろう。
手を出さなかったことで、不老不死は性欲がないとナナリーは判断したらしく、めでたく味方認定された。
すまないルルーシュ。
私は死にたいんだ。
この世は生き地獄だが、ナナリーに逆らうとそれ以上の地獄で生きるハメになるんだ。
だから私はこちらにつく。
恨むなら、ナナリーに溢れんばかりの愛情を注ぎこみまくったことを恨め。
むしろ愛情が溢れた結果がこれだ。
自業自得だ。
私は悪く無い。
C.C.はそう思いながらピザをパクりと口にした。

「申し訳ございません、掃除が行き届いておりませんでした」

咲世子は自分の責任だと、辛そうな表情で頭を下げた。
それに気づいたナナリーは、苦笑しながら首を振った。

「いえ、咲世子さんのせいではありません。たった3本の髪の毛を見つけ出すスザクさんが異常なんです」

しかもベッドマットの下、引き出しの中の下着の上、普段使っていない部屋の床。
普通であれば、見つけることなど出来なかっただろう。
それを発見したスザクがイレギュラーすぎるのだ。

「本当にあの駄犬は、本能に忠実になった時には恐ろしいほどの力を発揮しますから」

再会した時は、大人しい柴犬のような態度で接してきていたが、内面が一切変わっていないことにナナリーはすぐ気がついた。
いくら声が優しく、言葉遣いが丸くなった所で、ダダ漏れになっている本音の気配にナナリーが気づかないわけがない。

『ひさしぶりだね、ナナリー』

再会したあの時、ナナリーの手を取ったスザクは甘く優しい声でそう言っていた。だが、その手から伝わってきたのは、そんな甘ったるい感情ではなかった。

『俺のルルーシュに、妹だからってベタベタするなよな』

言葉とは全く違う、その内なる声。
だからすぐ理解ったのだ。
ああ、この手はスザクなのだと。
あの甘い声は、親友の妹に対して優しい態度を取るスザクをルルーシュに見せるためのもの。
今思い出しても腸が煮えくり返る思いがする。
昔から、スザクはルルーシュを独り占めしようと、あの手この手を使ってきた。だが、ルルーシュが常にナナリー、ナナリーと、生活のすべてをナナリーを中心に考えていたため、それが成功しなかっただけ。
表面上は無害な人懐っこい子犬のような態度で、かまってかまってと兄にまとわりつき、穏やかで明るく、甘い声で話すが、その心の中はドロドロとした嫉妬と独占欲が渦巻いていた。
そんな男が、再び兄のもとに戻ってきたのだ。
確かに、あのニュースを見た時に「どうにかなりませんか」と言いはしたが、あれはあくまでも幼なじみであるスザクを心配する優しい妹としての言葉であって、実際に助けだすなんて考えもしなかったのだ。
しかも兄が自らの手で、助けに行くなんて。
武器一つ持たず、会話だけで相手を翻弄し、助けだすなんて危険なことまでして。
・・・想像すらしなかった。兄の優しさを甘く見ていた。
ああ、駄犬が何かやらかしたのか。兄は悲しむかもしれないが、害虫よりもたちの悪い駄犬が傍に来なくてよかった。そう思っていたのに。

「だが、このままではこの部屋も探しに来るんじゃないか?」

咲世子が持ってきたチーズくんを抱きしめながら、C.C.は恐る恐る尋ねた。 先程からナナリーは真っ黒ドロドロオーラを出しまくっていて、声をかけづらいのだ。 しかも笑顔を崩さずにだ。
ナナリーがここまで裏表があるとは思ってなかったC.C.は、完全にドン引き状態だった。ナナリーだけではない、スザクの変貌ぶりにも引きまくっている。
・・・ルルーシュ、お前の周りは狼だらけらしいぞ。
しかも私がドン引きするレベルでの腹黒狼だ。
だから、いつも通りの自由気ままな行動をすれば、どんな腹黒攻撃が待っているかわからないため、ここは大人しくナナリーに従うことにした。

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